平成18年度の研究実績は、雑誌論文4件、図書1件である。 その内訳として、まず、ヴァイマル共和国末期において国家非常事態計画が登場する一つの重要な要因ともなった農民騒擾並びに共産党の農村進出に対するシュライヒャー内閣及び保守政党・農業利益団体指導部の危機感をバターの価格下落との関連を中心に検討した小論が「バターとヒトラー内閣の成立」である。さらに、戦前戦後の日本におけるファシズム研究の先駆者としての具島兼三郎のファシズム論を「上からのファシズム」論を中心に検討したのが、共著『《追想》具島兼三郎』である。また、ヒトラー指導下のナチス・ドイツによって引き起こされた第二次世界大戦に対する戦後ドイツにおける戦争の記憶の変遷と現状について、一連の戦後補償法との関わりを中心に素描したのが、「戦後ドイツにおける戦争の記憶と現在」である。平成18年度はヴァイマル共和国末期の国家非常事態計画登場の要因分析を行いながら、ファシズムの生成・展開・帰結を研究において大まかに俯瞰したといえる。 また、一昨年歴史学研究会と日本史研究会によって刊行された『日本史講座』第8巻、9巻、10巻をヨーロッパ近代という観点から論評したのが、「ヨーロッパ近代からみた日本近代論」である。そこでは主にドイツ近現代史研究におけるナチズムと近代をめぐる論争を念頭に置いて、『日本史講座』において展開されている日本近代論の意義と問題点を論じた。さらに、昨年はスペイン内戦勃発70周年であったが、そのスペイン内戦についてアジア及び市民という視点から論じられた著作の紹介が「紹介石川捷治・中村尚樹『スペイン市民戦争とアジア』」である。 以上が、平成18年度の研究実績の概要である。
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