本研究の目的は、ヴァイマル共和国末期におけるシュライヒャー内閣による国家非常事態計画並びに当時模索されていたそれ以外の国家非常事態計画を取り上げ、それらの構想の理論的可能性並びにその実現可能性についても考慮しながら、ヴァイマル共和国崩壊史研究を実証的に再検討することである。 平成19年度においては、上記の研究目的並びに研究実施計画に基づいて、ヴァイマル共和国史研究の専門家と『ヴァイマル共和国の光芒-ナチズムと近代の相克-』(昭和堂、2007年)を上梓することができた。そこにおいて当該研究の直接的な研究成果として、拙稿「共和国救済最後の選択肢?-シュライヒャー内閣の国家非常事態計画再考-」(286-313頁)を掲載したが、シュライヒャー内閣による国家非常事態計画を議会制民主主義の救済の可能性並びにヒトラー内閣成立阻止の二つの観点から実証的に再検討を行った。さらに、従来着目されなかったパーペン=フーゲンベルク闘争内閣といった別の国家非常事態計画の存在並びに君主主義者たちによるその計画の模索の様子を実証的に明らかにすることができたことが研究史上の特長である。従来、研究史上において手薄であったヴァイマル共和国末期における国家非常事態計画の諸相を実証的に明らかにし、かつシュライヒャーの国家非常事態計画を共和国救済最後の選択肢として理論的に可能であったかという点について、議会制民主主義の救済並びにヒトラー内閣成立阻止といった二つの観点から意識的に区別して再検討を行った実証研究は、研究史上においても殆どなく、その意味においても独自性を有するといえる。
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