本研究は、リスクの回避、安全・安心な社会の実現に地方自治体が主体的に関与すべき状況において、ガバナンスの観点から認識の枠組みを整理するとともに、実務体制の検討をする。18年度は、リスクが社会的に重視されてきた過程の理論的視座を整理するため、U.ベック、N.ルーマン、O.レン、C.フッド、カーネマンなどの研究をレビューした。行政学、経済学及び学際的視点から、「限られた資源におけるリスク認知の最適化」、「リスク・コミュニケーションと行政の説明責任」に重点を置き、以下の事例について基礎的観察を行い、考察した。 (1)自治体独自のリスク管理の先駆例である遺伝子組換え農作物の栽培規制条例に関する北海道のコンセンサス会議に参加し、概要を聴取した。これは自治体のリスク管理と市民参加の好例であり、研究の重要な手がかりとなった。 (2)学際的なリスク管理の観点から、全米科学振興協会年次総会における、米国の犯罪率の低下現象、都市政策などの議論に参加し、意見交換を行った。 (3)行政の観点から、ロンドン大学のリスク統御分析センターの研究レビュー及び英国自治体におけるリスク対応の現状及び体制について情報収集を行った。 (4)意思決定理論におけるリスクのモデル化及び実験経済学的手法についてプリンストン大学経済学部の研究者と意見交換を行った。 (5)リスク認知の観点から、米国の消費者の商品についてのリスク認識及びセキュリティーナンバーが信用情報として用いられている状況等について考察した。
|