研究概要 |
本テーマに関する研究を遂行するため,まず今日の中国の思想・文化界の状況を把握するべく,北京で中国の言論界をリードする知識人にインタビューをおこなった。その対象は「自由主義」派の論客王〓氏(中国社会科学院政治学研究所研究員,『公共論叢』編集長),「新左派」に大きな影響力を持つ江暉氏(清華大学教授,『読書』編集長),中立的な立場で両派への批判を展開する賀照田氏(中国社会科学院文学研究所副研究員,『学術思想評論』編集長)さらに近年の中国ナショナリズムの問題に関連して日中関係の専門家金煕徳氏(同日本研究所副所長),日本思想史研究の孫歌氏(同文学研究所研究員)の5氏である。これらのインタビューを通じて,自由主義者と新左派の対立が,これまでの言論上の対立の局面から権利擁護運動や改革開放政策への批判などのよりリアルな問題領域へとシフトしていることを確認できた。なお,江暉氏のインタビューについてはテープから起こして文字化した。また,近年の中国に1おける市民社会論議の背景を理解するために,天津では二つの「民間団体」一天津市軽工業連合会と南開区個体労働者協会-を訪問調査した。 本年度,これらの研究成果の一部は,「最新段階の日中関係研究会」(島根県立大学,2007年2月14日)における報告「歴史認識問題の背後にあるもの」,および「北東アジア研究会」(同前)における報告「現代中国におけるナショナリズム言説再考」として発表した。今年度は上記活動のほか,主として資料収集と整理につとめたが,目下これらを基礎として現代中国におけるナショナリズム言説批判をめぐる論文,および格差拡大など改革開放政策のひずみをめぐる知識人の論議に関する論文を準備中である。また,本研究課題に関連して江暉著『思想空間としての現代中国』(岩波書店,2006年9月)を共訳刊行した。
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