多くの民主主義諸国では、市民の政治離れが進んでいる。そもそも有権者の主体的な参加が民主主義の前提となっており、政治参加の後退は制度そのものの危機である。にもかかわらず、その原因について必ずしも十分な解明が進んでいるとは言えない。ましてや、効果的な処方箋は提供されていない。本研究では、概念ツールとしての「政治参加忌避態度(政治に関わりたくないという意識)」と、分析ツールとしての「一般市民に対するオーラル・ヒストリー」を用いて、主に世論調査結果に依拠したこれまでの知見を再確認・再検討すると同時に、新しい展望を得ようとした。 「一般市民」に対するオーラル・ヒストリーが、当該研究の特徴の1つであるが、その意味でも、どの「市民」を対象とするのか、その客観性が重要な要件となる。そこで、人口規模にしたがい、5つの調査地点をランダムに抽出し、さらに地点ごとに電話帳より平均400の番号をランダムに選び、電話による調査協力依頼を実施した(輿論科学協会に業務委託)。いわゆる層化二段無作為抽出法の応用である。最終的には47名の回答者から有効な回答を得ることができた。 そして、その郵送調査の分析をもとに、忌避態度の強度を主たる基準に置きつつ、また、地域性・性別・年齢などを考慮し、面接調査対象者を特定した。最終的には6名の個人(一般市民)が、インタビューに応じてくれることとなった。 聞き取り調査(オーラル・ヒストリー)の結果、(1)「関わりたくない」という忌避態度・意識も、その「質」において個人差がきわめて大きい。(2)政治的な現象に対する認知は、その他の日常的な事象についての「理解」の仕方と相関が高く、個人内の整合性は高いことなどが判明した。有権者の「生の声」を聞くことの重要性を確認した。
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