本研究はすでに、平成8年度より10年にわたって蓄積された研究を踏まえたものであり、北アイルランドでの現地調査をもとに、武力行使をともなう紛争を予防、回避、そして平和的手段によって解決し、さらに長期的展望として、公正で共存可能な民族間関係を構築していくための原則と政策形成の方法を開発することを目的としている。現在、北アイルランド政治は、1998年段階で追求された権力分有型に替わる新たな和平の方策を模索する課題に直面している。つまり、権力分有型の和平方式の限界を乗り越えるために、両派のコミュニティレベルの融合を可能にする行政的レベルの新しい方策を発見・開発することが重要課題となっている。 今次研究の研究目標として、(1)プロテスタント系政治団体、とくにUUPとDUPの和平合意反対派の政治姿勢とその支持母体について、現地調査をもとに、その動向と背景を明らかにし、(2)1998年和平合意以降のプロテスタント系住民とカトリック系住民との間に存在する地域的な分離傾向と職種上の種別化などの社会的諸問題への影響について、さらに考察を進めるとともに、それが両派の政治主張にどのように反映しているのかを分析する。 平成18年度は、8月28日から9月2日に現地調査を実施し、北アイルランド紛争について膨大なデータを蓄積しているベルファスト・クィーンズ大学のリアム・ケネディ教授の研究チーム、アルスター大学に付属するCentre for the Study of Conflict(CAIN)研究所、および同大学と国連大学との共同プロジェクトであるInternational ConfIict Research(INCORE)研究所との協力体制を基盤に、各組織の離合集散が激しく、また住民意識の相違から継続的な調査が相対的に困難であったユニオニスト系の政治団体とその支援団体、プロテスタント系の地域住民組織を中心に、実態的な資料の収集を行い、北アイルランド・ベルファスト市フォールス街にあるシンフェイン党本部を訪問し、和平合意の修正論議および自治議会の再開に向けた党の政策と方針について、聞き取り調査を行った。また、平成19年2月2日から10日かけて、8月の調査研究の成果について、英国ナショナリズム学会(ASEN)のジョン・ハッチンソン博士との意見交換と2007年度夏に予定している現地調査に向けた具体的なスケジュールに関する打ち合わせ・調整を行った。平成18年度は、専ら基礎データの収集と解析、研究動向と研究テーマのすり合わせのための研究交流に力を集中した。次年度は、平成18年度の成果をもとに、研究成果を公表し、これまでの研究成果について中間的な総括を行い、その内容をまとめて出版し、社会的な評価を問うこととしたい。
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