本年度は3年間の研究の最終年度として、(1)社会福祉政策の比較、(2)社会保障・社会政策の包括的比較分析、および(3)社会政策や東欧政治に関する基礎的なデータの整理を行うことを計画し、これに従い以下の成果をまとめた。 1.社会福祉政策比較-今年度は中東欧諸国の社会福祉領域の中で家族政策(育児支援および児童養育)に関する比較分析を行い、子育てに伴う社会的リスクの負担のあり方の相違が家族政策の相違と結びついていることを明確にした。 2.社会保障・社会政策の包括的比較分析については、これを労働政策との連関から分析することを試み、全体として積極的に女性の就労を支援するシステムを整備している諸国(エストニア・ラトヴィア・スロヴェニア)、伝統的な男性稼ぎ手モデルへの回帰がみられる諸国(チェコ・スロヴァキア・ハンガリー)、そして政策としての労働支援が欠如している諸国(リトアニア・ポーランド)という3つのパターンがみられること、およびこのような相違が生じた背景には、各国における政党政治および労働組合の影響力の相違が作用していることを確認した。この作業を通して、通説的な「リベラルなバルトと大陸型の中欧」という視点は必ずしも中東欧諸国の福祉を分析する際には適切ではないことを明らかにした。 3.データの公開については、いくつかの論文で各国の制度の相違を比較の形で体系的に整理した他、京都大学地域研究統合情報センターとの共同で政治分析の基礎となる選挙・政党に関するデータベースを作成し、これをホームページで公開している。
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