本年度は、米国における「みなし輸出規制」について分析した。「みなし輸出」(deemed export)とは、技術移転に関わるものであり、規制技術が輸出規制対象国に移転され、「輸出とみなされる」場合をさす。具体例をあげれば、規制技術やソフトウェアを口頭で規制対象国の外国人に伝えたり(学会発表も含む)、当該外国人が規制対象の装置や施設を視察する場合などがあげられる。みなし輸出規制に関しては、日本でも導入の動きがあり、みなし輸出規制は、米国のみならず日本の問題にもなっている。 第二次世界大戦後、米国は物品だけでなく技術も規制してきたが、米国の輸出管理においては特に1979年の輸出管理法以降、技術移転規制に以前より注目が集まるようになった。米国では一昨年に産業界、学界と政府の間で「みなし輸出」論争が起きたが、この論争を垣間見ると、「みなし輸出」規制対象国には、「冷戦の終焉」以前との連続性があるものの、今日ではロシアよりは中国がとくにその規制対象の前面に出ていることがわかる。また、みなし輸出規制は、米国による人の移動の規制、とくに9.11テロ以降の米国政府による移民規制強化と連動している。みなし輸出論争の中では、国家と国家を超える動きとの相克が顕著に見られ、科学技術の発展はいかにあるべきか、国力とは何か、といった問題も論じられており、21世紀における国家や国際関係の変化を分析するのに有効な切り口の一つになっている。
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