1.2008年度は、成果として、「戦間期国際秩序における国際連盟」を分担執筆として 上梓することができた。この論文では、国際連盟の成立当初から、連盟情報局において、 連盟の理念を広く各国民に知らせる政策がとられていたことを明らかにした。さらに、アメリカは国際連盟に公式には加入しなかったが、アメリカの民間団体の中には、連盟情報局と頻繁に連絡をとり、広報出版物を購入していた団体もあり、連盟が抱いていた構想がアメリカ国民に広まりを見せていたことがわかった。 2.フィールド調査としては、現在のアメリカにおける国連観について、アメリカ国務省国連局などにおいてインタビューをすることができた。現在のアメリカにおいては、多国間主義への懸念、および、国連に対する不信感から、必ずしも国連への期待は高くはなく、「グローバル・アイデンティティ」という点からは、戦間期にくらべるとむしろ後退しているという観測がもたれた。すなわち、1920年代の国際連盟成立当初から現在へ向けての「グローバル・アイデンティティ」の史的変遷を考えることの重要性がさらに感じられた。 3.現在ニューヨーク国連本部でなされている一般向けへの広報ツアーを体験してみたが、国連としては、紛争解決よりもむしろ開発・人権での成果を強調しており、「グローバル・アイデンティティ」発信者として、国連がどこに重点をおいてメッセージを送っているかがわかった。 以上3点は、連盟初期における「グローバル・アイデンティティ」への期待、現在の大国アメリカにおける「グローバル・アイデンティティ」への不信、現国連における「グローバル・アイデンティティ」の具体的内容について知見を新たにするものであった。
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