本年度はUACES(イギリスのEU学会)の年次研究大会で報告するとともに、Journal of European Integrationに論文を発表することができた。前者の報告ではEEC時代、70年代の初期・環境政策形成時期に絞って、環境言説が共同体機関の公式文書の中で、とくにソフト・ロー的なものに媒介されながら、共同体の公式の立場を表明するものになっていった経緯を分析した。その際、ASEANの事例と比較することにより、言説による環境規範の構築が、実は国連にも由来する長大かつ長期にわたる国際環境規範形成過程に埋め込まれている側面にも注意を払った。後者の国際ジャーナルに投稿した論文では、EUの持続可能な発展戦略をとりあげ、この戦略がOMC(裁量調整方式)というソフトなガバナンス様式に酷似した形で形成されている点、およびこの戦略が持続可能な発展の意味を画定していく言説構成の装置のように機能している点、そして一見、欧州議会への諮問や利害当事者の参加、政策過程の透明性といった民主性を向上させる制度上の仕組みを作り上げてきたにもかかわらず、持続可能な発展の具体的な意味については、ある特有の方向での解釈が浸透しており、民主性向上のため参加をうながされるどの政治アクターも、この言説による意味の構成のあり方に関しては、制度的に保証された異議申し立てが不可能になっているという点、以上3点を明らかにした。(このある特有の方向とは、おそらくはネオ・リベラル的なものといえるように思われるが、この点は論文では踏み込んでいない。今後の課題にしたい。
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