本研究の目的は漸進的な経済改革を「部分自由化」及び「部分民営化」をキーワードとして分析し、最終的には、現実の日本及び中国などの移行国の諸改革を分析・評価する枠組みを構築することにある。 本年度はその第一歩として、参入規制を取り上げた。参入規制を正当化する重要な定理として「過剰参入定理」とよばれる結果がある。この結果を企業の立地選択のモデルを使って分析し、参入規制が正当化される十分条件を明らかにした。同時に、参入規制が正当化されない事例を新たに発見し、この定理が従来考えられてきたよりは頑強ではないことを明らかにした。またこの研究に先立って、企業の立地選択に関する基礎的な分析を行い、我々のモデルで用いた最大距離立地の仮定が、一般的な輸送費用関数の下で正しいことも明らかにした。また、同じく立地モデルを用いて、課税政策と均衡立地の関係を明らかにし、従量税タイプの課税による歪みが上記の結果を変えることはないという結果を得た。 規制改革の問題と同時に、公企業改革の問題にも取り組んだ。研究開発部門での官民の競争、役割分担を混合寡占のモデルを用いて明らかにした。その結果、官民ともに危険中立的であったとしても、官はより大きな(リスクの大きい)プロジェクトを選択すべきであることを明らかにした。並行して、ベンチマークとして純粋市場(公企業が存在しない市場)における研究開発の性質を明らかにし、投資を促進すべき状況を識別するための十分条件と次善解をえる補助金のスキームを具体的に明らかにした。 また混合市場における規制改革、とりわけ外国企業に対する参入規制の影響を分析した。立地モデルを用いて分析した結果、少数の外国企業の参入は市場の構造に影響を与えないが、ある閾値を超えると市場構造に非連続的な影響を与えることを明らかにした。具体的には、一定数以上の外国企業の存在は、民の横並び行動を抑制し、立地の差異化を促すことを明らかにした。
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