研究概要 |
平成19年度は,平成20年度にパネル化した人事データを用いて,個人別賃金や人事評価結果のバラツキの推移を観察し,賃金関数や生産関数を推定した.まず,本研究の分析対象であるJ社は,2000年に成果主義的な人事制度改革を実施しているが,こうした改革が実際にどの程度報酬構造を変えたのかを賃金関数の推定により明らかにした.また,勤続年数や人事評価結果が個人別賃金にどのような影響をもつのか,営業スタッフの販売台数と業績給との関係を明らかにすることを試みた.主たる分析結果は,次の通りである.改革の結果,賃金構造は大きく変化し,平均的には社員の生産性は高まったが,新車と中古車では結果が異なることが明らかとなった.次に,本研究のいまひとつの研究対象であるA社に関しては,データが日次取引データであることから予想外にデータ整理に時間を要し,予備的な計量分析しか行えなかった.平成20年度の課題としたい. 他方で,J社従業員個人に対して行われたアンケート調査結果データを分析した.その結果,以下の点が明らかとなった.(1)賃金や会社生活に対する不満は加齢するほど強くなり,営業スタッフやサービス部門の社員ほど強い.(2)昇進制度について公正ではないと感じる社員が多く,特に40歳代でその傾向が強い.(3)人事評価結果への納得度は67.8点(100点満点)であり,他の調査結果と比べて特に低いわけでないが,人事評価結果のフィードバックが少ないと感じている社員が多い.(4)新人事制度の理解度が極端に低い.65.9%もの社員が「理解していない」と回答している.しかも,そうした無理解が労働意欲に関連する多くの回答と負の相関関係をもっている.なお,これに対して,A社では労使関係配慮の観点から従業員意識調査の実施は受け入れられなかった.平成20年度に,管理職への聞き取り調査により補うなどの措置を講じたい.
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