研究概要 |
本研究の目的は,日本企業(J社)と北米企業(A社)との人事データに基づき成果主義的賃金制度の効果と副作用を分析することである。具体的内容は次の通り。(1)日本の自動車販売会社J社で2000年に実施された人事制度改革の核心は,線形の単純な報酬制度からドロー・ライン(閾値)で屈折する非線形の報酬制度への変更という業績給システムの改革であった。2つの結論が導かれた。(1)生産性の全般的上昇やゲーミングの発生など,欧米で見出されてきた成果主義賃金の効果と副作用が,日本でも同様に確認された。(2)業績給改革のインセンティブ効果は,新車営業スタッフに比して中古車営業スタッフにおいて小さかった。その理由は,中古車の場合,店舗における現物販売が主なため,期末や閾値近傍での追加的販売努力の投入が容易ではないこと,また新車に比べて中古車の粗利益が相対的に小さいため,閾値を超えることが困難であること,に求められた。(2)他方,北米自動車販売会社A社に関しては,取引データに基づき,同社で採用されている非線形報酬制度の不均一なインセンティブ効果が生産性や利益率にどのような影響を与えているかを分析した。2つの結論が導かれた.(1)インセンティブ強度の変数は,日次の販売台数の分布に対し正の効果をもつ。この結果は,不連続型非線形報酬制度によってもたらされた日々のインセンティブの変化に社員が反応している可能性を示唆する。第2に,限界コミッションと粗利益率とは,車種や取引のタイミングなどをコントロールした上でなお,負の有意な相関関係を有する。このことは,インセンティブ効果の高まりによる販売努力が値引きという方向に働いていることを示す。このように,客観的成果指標を含む人事データを用いて,成果主義賃金の効果と副作用を明らかにした研究は海外でもきわめて少なく,人事の経済学のフロンティアの拡大に貢献できたものと確信す。
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