動学的ヘクシャー=オリーン(HO)・モデルを用いて、貯蓄税と投資税の効果を分析した。これまでの動学的HOモデルでは、金融資産の国際取引が考えられていなかったため、家計が貯蓄するときには資産を国内資本の形でためるしかなく、その結果、貯蓄と投資の量は必ず一致していた。そのため、どちらに税金をかけても効果は同じであることが導かれていた。本研究では、金融資産の国際取引を導入したため、家計は外国資産を保有することができることから、これらの税金は別々の効果を持つことがわかった。具体的には、投資税は国内の資本蓄積を抑制するが、貯蓄税は多くの場合、資本蓄積を促進するという、まったく反対の効果を持つのである。 次に、国際的不況メカニズムに関する基礎的分析として、ケインズの不況理論の基本的性質とその国際経済での働きについて研究した。その結果、ケインズの理論では利子率として、貨幣か収益資産かの選択に関わる流動性プレミアムだけが強調され、時間選好率の側面は消費関数というアドホックな概念で取り扱われたために、多くの欠陥を生むことがわかった。また、消費関数の代わりに時点間の最適行動を記述する新古典派のラムゼー法則を導入すると、それらが解決されることが示された。さらに、それを国際的不況過程分析に応用する際には、固定相場が念頭に置かれているため、為替調整のメカニズムを加えると結論に大きな違いが出ることがわかった。すなわち、固定相場のもとでは、外需による経常収支の黒字化は国内景気を刺激するが、為替が変動すると、黒字が通貨高を生んで、かえって国際競争力が失われるという、反対の結果が導かれるのである。
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