研究課題
労働市場に需給の不均衡が存在する場合の賃金調整について、最近の行動経済学で提唱されている各種の公正概念を適用し、既存の労働者が失業の状況と自分の公正概念を考慮しながら新たな公正賃金を形成するメカニズムを明らかにするとともに、それを考慮した企業の賃金決定行動を定式化した。その結果、賃金の変化率が、時間選好率、流動性選好、現在の雇用状況という3つの要素に依存することが明らかにされた。さらに、それを貨幣的マクロ動学モデルに応用し、金融・財政政策が景気に与える影響を分析した。その結果、人々の貨幣保有に対する選好(流動性選好)の大小によって、それぞれ一時不況と慢性不況が発生することがわかった。また、完全雇用に至る途中で発生する一時不況では、金融緩和は需要を増やし、財政支出の効果はプラスとマイナスのいずれにもなり得るが、慢性不況では金融緩和には効果がなく、財政拡大は短期長期いずれにもプラスの効果を持つことが示された。さらに、雇用契約期間を早めることにより賃金調整は早まるが、それが一時不況の場合には完全雇用の達成を早めるのに対して、慢性不況ではかえって不況を悪化させることも示された。このように、景気の深刻度に応じてまったく異なる政策効果を導いた分析はこれまでになく、政策への意義も大きい。つぎに、上記の研究結果に基づき、90年代以降の日本における長期不況の経緯を俯瞰し、各種政策の効果を分析した。現実の日本では、使い道よりも金額に注目した財政支出や金融緩和などの政策は当初期待された効果を持たず、雇用流動化による賃金下落速度の上昇はかえって不況を悪化させていた。このような性質は、これまでの新古典派モデルやニューケインジアン・モデルでは説明することが難しいが、本研究の理論を適用すれば、これらの効果と整合的な性質を得ることがわかった。
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Journal of Money, Credit and Banking Vol. 42 No. 1
ページ: 93-112
Chapter 2 in The Return to Keynes
ページ: 32-50
http://www.dma.jim.osaka-u.ac.jp/kg-portal/aspI/RXOO11D.asp?UNO=12380&page=
http://www.iser.osaka-u.ac.jp/~ono/