研究概要 |
(1)時間選好率のマクロ経済含意 論文Ikeda(2007,IER)では、異時点消費選択モデルを用いて、奢侈財と必要財の違いを分析し、所得が増加する局面では奢侈財消費に関する時間選好率が必要財に関するそれより低くなることを示した。その上で、奢侈財消費を規制する奢侈税や奢侈財輸入関税が、富や資本の蓄積をかえって阻害することを明らかにした。 時間選好率が富に関して減少的である場合、安定的な最適消費経路が得られないという予想から、実証的には支持される減少的時間選好率(decreasing impatience)の分析がほとんど行われていない。論文Hirose and Ikeda(2007,JER in press)では、減少的時間選好率の下では、消費の増加がもはや生涯効用水準の上昇に寄与しないような「飽和点」が存在することを明らかにし、複数定常均衡の可能性と定常点の安定性の観点から小国モデルと閉鎖(外生的)成長経済モデルの最適経路の性質を分析した。とくに、成長経済では、不安定的な飽和点と鞍点安定的な修正黄金律点という2点で複数定常均衡を持つことを示し、政策分析を行った。 (2)時間選好率の実証分析 論文(池田・筒井,2006)では、アンケート調査と経済実験のデータを用いて分析した結果、時間選好率の推定値が金額効果や双曲割引などの定型的性質を示すとともに、性別や富などの社会・経済属性に強く依存し、負債や喫煙などにみられる被験者の行動特性を有意に説明することを示した。 (3)その他 肥満、中毒、負債行動に時間割引率がどのようにかかわっているかについて、実証分析を進めている。成果の一部は、週刊『エコノミスト』連載の「よく効く経済学」(「せっかち」な人ほど肥満化する」(10/10号)、「目先の誘惑に負け、禁煙後回し」(11/21号))、日本経済新聞「経済教室」(「人間心理と多重債務問題」2/4)などに公表。
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