交付申請書「研究の目的」にあるように、平成20年度は、時間割引率の決定要因とその経済含意を理論と実証の両面から分析した。とりわけ、実証的に広く観察される冨・時間割引率間の負相関の経済含意については、マクロ動学的な観点から理論的な研究を行い、論文Hirose and Ikeda(2008)(「研究発表」欄参照)にまとめた。実証研究については、「研究実施計画」に従って、時間割引率およびそのアノマリー(双曲割引、符号効果)と、肥満度やBMIなどの体格形成について分析を行った(大阪大学ISERDP No.732)。この研究では、時間割引のレベルによって表される人々のせっかち度(degree of impatience)だけではなく、双曲割引による後回し傾向や符号効果といった時間割引の特性(アノマリー)が人々の体格差を説明することを初めて明らかにした。また「計画」(2)にしたがって、危険回避度と時間選好率の相関を説明できる理論モデルを考案し、その含意をマクロ動学と実証の両方の観点から明らかにした。サーベイデータや経済実験を用いた実証研究では、推定される時間選好率が回答者や被験者の危険回避度と相関をもつことがしばしば報告されている。本研究では、こうした傾向を説明するために、選択者の選好に確率的なゆらぎがあるモデルを考え、そうした消費選好の内部に存する「内部リスク」を割り引くパラメターとして時間選好率を内生的に導出した。その結果、危険回避によって誘発された時間選好率が経済成長などのマクロ経済問題や危険回避度と富の実証的な関係にも大きなインプリケーションをもつことも明らかになった。
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