研究概要 |
本研究は、チームにおける有効なリーダーシップの成立に、そのチームメンバー間での情報共有のあり方がどのようにかかわっているかを、実験室実験によって明らかにしようとするものである。具体的にはKobayashi and Suehiro(2005),"Emergence of Leadership in Teams, "Japanese Economic Reviewが研究したチーム生産ゲームを実験室実験し、この先行研究が発見したリーダーシップの発生条件の実際の妥当性を検証するものである。 平成18年度は、3年計画で行う実験研究の第1年度として、研究するゲームの実験設計を研究した。まず、Kobayashi and Suehiro(2005)論文で見出されたリーダーシップ発生の十分条件である、情報の独立性が満たされているチーム生産の実験を設計した。チーム生産性について、2人のプレーヤーが独立にH(楽観的シグナル)かL(悲観的シグナル)を受け取り、2つのタイミングのいずれかで、連続量のかわりに11通りの努力水準から1つを選ぶ実験とした。それを、(1)学部の決定分析の受講学生を被験者とし、(2)プレーヤーのマッチングを固定する8回繰り返しプレイで、(3)プレイの結果に対する金銭報酬なしに、実験した。その結果、[A]一方の個人が常にリーダーシップをとり、他方がフォロアーになる、[B]どちらの個人も、シグナルHのときリーダーシップをとる、[C]リーダーシップの規則性がない、の3通りのペアーがあることが分かった。 この結果は、Kobayashi and Suehiro(2005)論文の予測の妥当性を検証する上で、(1)+(2)+(3)の実験設計に問題があることを示している。第1に、[C]のケースは、8回の十分な繰り返しでは想定されない。第2に、[A]と[B]の2種類のリーダーシップ・パターンが混在するにもかかわらず、それを識別する条件が不明である。この問題が実験設計の(1)(2)(3)のいずれに由来するのかをハッキリさせるために、第2の問題がない、行動タイミングを固定して、一方のプレーヤーが先に行動し、他方が後でなければならないというHermalin(1998)のゲームを実験し、[C]が解消されて[A]のもとになった分離逐次均衡が起きるかどうか実験した。実験を、努力水準の選択肢を3通りに単純化した上で、(I)ボランティア募集した大学院生を被験者とし、(II)1回ごとに匿名の相手を変えるランダム・マッチングで10回繰り返しプレイをし、(III)金銭報酬を与える、という方法で行った。その結果、分離逐次均衡が有意に現れることが確かめられた。 そこで、もとのチーム生産ゲームを、「選択肢の単純化+(I)+(II)+(III)」の方法で実験した。その結果、[B]が有意に現れることが確かめられた。このことから、この設計が、1つの有効な実験設計であることがわかった。ただし、この実験設計でなぜ[A]が消滅するのかを検証する副実験を設計する必要性も、同時に明らかとなった。
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