平成18年度は研究計画に従って連合王国の大英図書館とケンブリッジ大学図書館で資料収集を行なった。主として、19世紀中葉までの株式銀行に関する文献を収集した。またこれと並行して、「Monied capita1の蓄積について-トーマス・トゥックと匿名氏の『通貨理論論評』-」を執筆した。この論文は、1825年恐慌後のセントラルバンキング論者の中で、マカロックやロイド、ノーマンなどの通貨学派の主流とは一線を画したトウックのmonied capitalの蓄積の理論を掘り下げ、またこの理論が1845年の匿名氏の理論へつながっていることを解明したものである。この論文で明らかにしたことは2つある。(1)トゥックは1825年恐慌の原因として貨幣資本の波及的移動論を展開し、貨幣資本が現実資本とは異なる動きをすることを解明した。(2)匿名氏はmoney in its latent formという語でぐ貨幣資本の架空性を指摘し、銀行の帳簿上の記録にしか残らない貨幣請求権が銀行組織全体に累積していくメカニズムを解明した。以上の分析によって、スミス、リカードウ的な古典派の資本概念を克服する契機が1825年恐慌の原因をめぐる通貨主義内部での意見対立にあったことがわかるはずである。 平成19年度は、この議論を土台にして、(1)セントラルバンキングの通貨管理の思想について、(2)フリーバンキングの銀行制度改革について論ずるつもりである。まず前者については、リカードウ以後の国立銀行設立私案の内容が換骨奪胎されてピール条例になっていく過程を掘り下げる。後者については、フリーバンキング論者が株式銀行は有限責任よりも無限責任のほうが良いとした理由の意味を掘り下げる。
|