研究概要 |
平成19年度は研究計画に従って連合王国の大英図書館とケンブリッジ大学図書館で資料収集を行った。主として,19世紀中葉の株式銀行および通貨改革に関する文献を収集した。またこれと並行して,次の2つの課題を検討した。(1)セントラルバンキング学派の通貨管理について,(2)1847年恐慌と浮動資本(流動資本)の固定化説について。 1830年代から40年代にかけてセントラルバンキング学派の中央銀行論は,大きく2つの方向に分裂していた。ひとつはイングランド銀行とは異なる国立銀行を組織して通貨管理を行うというリカードウが提案した方向であり,もう一つはロイドやノーマンに代表されるイングランド銀行を改組してリカードウの通貨管理のエッセンスを取り込む方向である。後者の理論の核心であるイングランド銀行の発券部と銀行部への分割および発券集中はリカードウの理論に淵源がある。両者に共通性はあるが,ちがいはリカードウの通貨管理が裁量であったのに対し,ピール条例が100%金準備をルールとしたことである。セントラルバンキング学派の通貨管理が裁量からルールへと変化した内実を検討している。 次に,47年恐慌の原因についてはJ.ウィルソンやJ.S.ミルが主張した浮動資本(流動資本)の固定化説が有力な理論である。ここでの検討課題は,第1に浮動資本という概念について,第2にその浮動資本が株式市場を通じて鉄道株へ投資され「固定化される」という理論的内容である。浮動資本が鉄道株に投資されても,その資金は実体経済に回流してくるはずである。当時の金融逼迫が具体的にどういう形で起きたかを検討している。
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