本年度は、イギリスで資料収集を行い、また研究の最終年度にあたるので、論文の発表と国際学会で研究成果を発表した。資料の収集に関しては、大英図書館とケンブリッジ大学図書館で行った。特に、18世紀後半のイギリス銀行制限期および1833年の銀行法改正時におけるLegal tenderをめぐる論争と同時期のイギリス財政史に関する文献を中心に収集した。また論文に関しては、「Monied Capitalの蓄積についてートーマス・トゥックと匿名氏の『通貨理論論評』」を発表した。この論文では、1821年にイギリスが金本位制に復帰したにもかかわらず、1825年に恐慌が起きたのは貨幣市場での貨幣資本家による投機であることを、トーマス・トゥックのMonied Capitalの波及的移動論と匿名氏の貨幣市場飽和論によって説明した。金本位制は価格標準と外国為替の安定を図るための制度であるが、この制度があっても、現実資本の運動から離れて貨幣資本が独自に運動し恐慌が起きることをトゥックも匿名氏も指摘していることに着目した。特に、トゥックのMonied Capitalの波及的移動論は貨幣資本が国債市場等の貨幣市場での利子率格差にもとづいて投資対象を変更するプロセスを指摘している点で、この理論が古典派経済学の枠組みを変更する理論であることを指摘した。またこの論文は同名のタイトルでアムステルダム大学で開かれた第14回ヨーロッパ経済学史学会で報告された。
|