研究概要 |
本研究課題は「リスクの経済学の成立と発展に関する思想的・学説史的研究」である。「リスクと不確実性の経済学」が学問として市民権を得たのは比較的最近の1980年代のことであるが、その期限は非常に古く18世紀のアダム・スミスの時代にまで遡ることが可能である。このような「古くて新しい学問」の成立の発展の歴史について、その背景となる社会基盤事情に関係づけて体系的に解明することは、非常に意味のある仕事である。 本研究プロジェクトの実施期間は、平成18年度〜20年度にわたる3年間である。平成18年度はその初年度にあたり、リスクの経済学の「始動期」に活躍した学者の思想と社会的基盤事情について、体系的・学際的な研究活動を実施することに努めた。この点を具体的に述べると、次の通りである。 (1)「経済学の父」として有名なアダム・スミス(1723-1790)は、実のところ、リスクの経済学の開拓者の一人と見倣される。アダム・スミスのリスク研究を体系的に調べるために、John Cunningham Wood (ed.) Adam Smith : Critical Assessments, Vol. I-IV, Routledge, London & New York, 1984など、英文の基本文献1セットを購入した。また、他の二人の開拓者として、スミスと同時代のダニエル・ベルヌーイ(1700-1782)とカンティロン(1680-1734)を取り上げ、そのリスク思想と時代背景を解明することができた。 (2)本研究活動のためには、膨大な文献複写・整理作業が必要であった。この作業を円滑に進めるために、複数の短期雇用者を常時雇用した。 (3)数々の学会・研究会・・ワークショップに積極的に参加し、意見交換を行なうことが出来た。とりわけ、京都大学財政学研究会シンポジウムでの招待講演「公共政策と情報」(平成18年8月29日)、関西学院大学経済学部セミナーでの招待講演「リスクの経済学--現状と展望」(平成18年11月29日)、名古屋大学経済学部地域経済学ワークショップ「リスクの経済学について--学説と背景」(平成18年12月24日)は、研究上非常に有意義な会合であった。 以上を総括すると、平成18年度には、3年間に及ぶ本研究課題を推進するための第一年度として、意義ある諸々の研究・調査活動を進めることができた。平成19年度以降においては、この研究成果の上に、リスクの経済思想・背景事情について、一層の研究推進を図る予定である。
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