今年度の研究計画は、「社会経済」の理論面の研究を進めると同時に、平成19年度からの実践面の研究のための資料収集を集中的に行うことだった。 まず、理論面の研究としては、ジッド、シェイソン、ルロワ=ボーリューを中心に、当時の社会問題のなかでも政治的にも重要な位置を占める人口問題に焦点を絞り、少子化の費用便益分析として、人口問題に関わる経済分析の展開を検証した。内容は、1.産業化の進展に伴う経済構造の変化によって子どもがもたらす便益の評価が減少する一方で、子どものための費用(とくに機会費用)が増大しているという認識が広まったこと、2.賃金水準の相対的上昇と少子化の結果として、マルサス人口論に対する批判が高まったこと、3.この理論面の変化・深化を受けて、女性労働と家族に関わる人口政策が提案されたことの3点にまとめられる。この研究成果に前年度の住宅政策に関する研究成果を加えて、平成18年12月にニース大学で開催された第1回ESHET-JSHET合同会議(経済思想史における知識・市場・経済統治)において、Associations and/or the State : Economic Governance "a la francaise"と題して報告した。この報告では、人口問題と住宅問題の結節点として家族が重視されたこと、人口・住宅政策の担い手として、政府にとどまらず、企業や協同組合などのアソシエーションめ役割が強調されたこと、そして、これらが世紀転換期フランスの新しい経済統治の原型を提供したことを指摘した。 資料の収集については、9月に小樽商科大学図書館において、ジッド、シェイソン、コルソンの主要資料の収集を行った。つぎに、フランスにおいて、社会問題への企業の対応を考察するために、社会事業・企業内福祉を展開した企業に関する資料の収集と現地の視察(1.ファミリステール・ド・ギーズ、2.ナント低廉住宅、3.レンヌのオーベルチュール印刷会社、4.ミュールーズ労働者住宅街、5.ナンシーの民衆大学および民衆会館)を行った。
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