本年度は、資料収集作業を継続するとともに、これまで個別に検討してきた論点を総合し、世紀転換期という時代の中に「社会経済」の思想と実践を的確に位置づけることを目標とした。 <資料収集> 昨年度実現できなかったフランスでの資料収集を夏期休業中に実施した。とくにシェイソンが企業内福祉を実践したLe Creusot製鋼所では、企業主のSchneiderの「社会経済」の理念が強くシェイソンに影響を及ぼした点を確認することができた。また、この海外出張中にパリ第一大学のAnnie Cot教授と意見交換をし、ジッドの協同組合思想の理解について、有意義な示唆を得ることができた。 <研究内容> 1)理論面からのアプローチに関しては、ワルラス、シェイソン、ジッド3者の「社会経済」概念の比較研究を継続し、政府と市場をつなぐものとして、多様な形態のアソシエーションが「社会経済」の思想の中核を占めることを明らかにした。この論点は現代の中間組織の議論とかさなり、「社会経済」の思想の現代的意義を考える上で重要な論点になりうる。この課題は本研究期間終了後も継続する予定である。 2)昨年度までの研究の結果、それぞれの経済学者における当時の主流派である古典派経済学との距離感の違いがそれぞれの「社会経済学」の内容の相違を生み出していることが判明した。今年度はこの知見に基づき、彼らが「社会経済」の立場から、どのように古典派経済学を総括したのか、を検討した。この論点は「社会経済」の理論的特徴を明らかにする意味を持つと考えている。この研究の成果のシェイソンに関連する部分はすでに2カ所で報告した。ジッドに関連する部分は、「ジッド=リストの『経済学史』-世紀転換期における経済学観の変容」と題して、2010年5月22~23日に富山大学で開催される経済学史学会大会で報告する予定である。
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