研究概要 |
一般に財の間・サービス需要の代替性・補完性は交差弾力性の正負によって定義されるが、推計は困難である。本研究では、価格データが利用可能ではない、ないしは存在しないときに、多くの需要主体にわたる購入行動ないしは消費行動の実績データを用いて、財の需要間の代替性・補完性を推計する方法を開発することを目的としている。 昨年度は、理論部分として、確率的効用を仮定した離散選択モデルを論文にまとめ、19年度ヨーロッパ産業経済学会で報告した。本年度の目的は、理論モデルに基づいて提案した指標について、実証分析への適用可能性を検証することであった。すでに、価格変数を持たないテレビ視聴行動分析へ適用を試み、インプリケーションに富み、直感とそれほど距離のない結果が得られているが、その正当性を検証する方法がないこと、およびヨーロッパ産業経済学会での報告時における他国研究者からの示唆に基づき、仮想的効用関数を持った消費主体の行動をシミュレートすることによりサンプルを作りだし、提示された推計方法の有効性を確認する作業を主に行った。 結果の概要は以下のとおりである。ここで提案した代替性・補完性指標の推計値は、理論的な予測通り、代替性・補完性の程度と単調な関係を持つこと。推計にあたっては、Schmidt and Strauss (Econometrica,1975)による同時決定ロジット回帰が使えるが、通常のmultinominal logitでもほぼ同じ程度に有効な推計を行えること。推計誤差は、どちらの方法でもそれほど大きくなく、実用に供することが可能であるが、一定のバイアスが発生すること。このバイアスはロジット推計の係数推計値のバイアスによるものであること。ただし、代替性・補完性の検定に影響を与えないこと。等である。
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