一般に財の間・サービス需要の代替性・補完性は交差弾力性の正負によって定義されるが、推計は困難である。本研究では、価格データが利用可能ではない、ないしは存在しないときに、多くの需要主体にわたる購入行動ないしは消費行動の実績データを用いて、財の需要間の代替性・補完性を推計する方法を目指した。 平成18年度には、理論部分として、確率的効用を仮定した離散選択モデルを論文にまとめ、2007年ヨーロッパ産業経済学会で報告した。平成19年度には、理論モデルに基づいて提案した指標について、実証分析への適用可能性を検証した。あわせて、価格変数を持たないテレビ視聴行動分析へ適用を試み、インプリケーションに富む結果が得られた。この結果をケース・スタディとして、ヨーロッパ産業経済学会で報告した。さらに、その機会に得られた他国研究者からの示唆に基づき、仮想的効用関数を持った消費主体の行動をシミュレートすることによりサンプルを作りだし、提示された推計量の特性を確認した。 結果の概要は以下のとおりである。指標Prob(Y=l|X=1)-Prob(Y=1|X=0)が、離散選択行動における代替性・補完性を示す指標として適切である。この指標は、2財間の代替性・補完性の程度と単調な関係を持ち、一定の仮定の下で、交差弾力性を正準化した値と一致する。この特性は、モンテカルロ・シュミレーションによって確認される。推計にあたっては、Schmidt and Strauss(1975)による同時決定ロジット回帰が使えるが、通常のmultinominal logitでもほぼ同じ程度に有効な推計を行える。ただし、推計値は、理論的に予想される値に対し一定のバイアスを持つ。このバイアスは代替性・補完性の検証には影響を与えない。また、価格変数の情報が得られなくとも、結果への影響はきわめて少ない。
|