20年度は本基盤研究の最終年度にあたる年であり、研究の総まとめとして、著書を刊行した。共著であるが、全体(256ページ)のうち、研究代表者は、約100ページを執筆した。 成果物たるこの著書の研究の目的は、日本の自動車企業における車両開発に関わる人材の育成、仕事の組織、人事管理、労使関係の実態と特質の解明であった。そしてその解明した内容は、開発部門内においても開発部門と製造部門との間においても、人材の育成や個々人の仕事の幅はあまり拡がりを持たないが、他面でそれらを稠密につなぎ合わせるための管理と協議(会議体、打合せ等)が極めて発達しており、それが開発部門から製造部門までの経営情報の精確かつ広範な伝達を保証しているために、日本の自動車企業の製品開発スピード、製品の品質、コスト形成力が高い水準で維持されていることである。くわえて、一般に経営管理においてほとんどその意義をかえりみられることのなかった労働組合が、労使協議という機構を職場レベルから企業レベルにまではりめぐらすことによって、開発過程の進捗管理やコスト管理などの経営情報の通流に少なからず寄与していること、さらにそのことによって、労働組合が職場の技術者や労働者の労働時間管理や人材育成に発言する基盤を得ていることを明らかにした。 以上に述べた本研究の意義は、これまでほとんど実証研究されてこなかった企業の開発部門の仕事管理や労使関係の特性を明らかにしたこと、その結果、日本の自動車企業の競争力の基盤の一端を明らかにしたことにある。
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