19年度は主にフランス、シンガポール、香港、タイにおいて調査を行い、クリエイティブ産業クラスター内でのネットワークの構築による創造的環境の形成と、クラスターが生み出す知識外部性に関する分析を行った。現在、クリエイティブ産業は経済成長の新たなエンジンとして世界各国において注目されているが、その国内経済に対する影響はいくつかの段階にわたる。このうち、直接的ではあるが、有形でない国内経済へのクリエイティブ産業の経済波及効果と、コンテンツ産業とのネットワーク特性の分析を行った。これにはコンテンツ産業におけるデザインや差別化への芸術作品や文学などの経済効果が含まれ、コンテンツ産業におけるイノベーションや産業高度化と国際競争力強化へ芸術がいかに貢献しているのかという問題意識をもって調査と分析を行った。 コンテンツ産業は、オリジナルの知識、製品、サービスを創造する。これらコンテンツ産業が生み出す創造物の経済価値は、製造業やサービス産業において採用され、または商業化されれば、何倍にも価値は増加する。情報経済化の進行により製品やサービスがより知識集約的で技術集約的となっているので、この効果を取り入れることが競争優位に立つための源泉となりうるからである。それゆえに創造的な製品やサービスの他分野での利用可能性が鍵となる。他のコンテンツ産業の研究とは異なり、芸術・文化のコンテンツ産業への影響とコンテンツ産業の他産業への経済効果に焦点をあてて分析した点が特徴である。またそのような創造的な場を形成するにはどのような政策をとらねばならないか、そしてアジアにおいてどのような国際協力が必要か明らかにすることは意義あることなので、次年度はその点を重視して研究を発展させる予定である。
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