18年度より行ってきた東アジアの韓国、シンガポール、香港、台湾における調査を継続し、クリエイティブ産業のクラスター内で創造的環境を形成するために、どのようにネットワークを構築しようとしているのか調査し分析した。また20年度は米国と、EUでは昨年のフランスに続きドイツにおいてクリエイティブ産業クラスターの調査を行った。クラスターが生み出す知識外部性に焦点を当てた調査を行い、東アジア諸国のデータと国際比較する分析を開始した。クリエイティブ産業の特徴として、プロジェクト・ベースである点が重要であり、作品やサービスの創出のためには、異なるコンピテンスをもつ人々を集めて新たなプロジェクト・チームを短期で創り上げる必要がある。そのためには多様な知識労働者が集積していなければならず、多様な労働市場が形成されるためにはクラスターにおいて寛容性が高くなければならない。そしてそのような創造的な「場」がグローバル化した都市であり、そこで形成されたクリエイティブ・クラスター内では知識外部効果が高く、多様な知識の迅速な組換えが可能となることが明らかとなったので、論文として研究成果の一部を発表した。 クリエイティブ・クラスターが時間の経過とともに文化的な制度の厚みを増して創造的な場を形成するには、文化資本の蓄積が重要な鍵となる。この文化資本が有効に活用されるためには、社会における諸個人と集団の関係性が問題となり、その場合には文化資本をソーシャル・キャピタルと組み合わせて考える必要がある。知識労働者の交流を促進してコミュニティの維持形成に関係するのがソーシャル・キャピタルであり、クラスター内のネットワークと信頼関係がクラスター効果を有効にするための重要な要素となる。さらに各国のクラスター間でもネットワークが形成されつつある。今後、この点を重視した調査を継続し、東アジアにおける地域経済協力にむけた政策を立案したい。
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