平成18年度はプロジェクト初年度であり、研究企画と分析枠組み立案、関連文献サーベイ、および次年度以降のフィールドワークの準備作業が中心であった。産業クラスターに関する既存研究のサーベイから得られた最重要の知見の1つは、クラスターの発展にとって、地域内部のネットワークの他に、外部の先進的市場や知識ソースとのリンケージが重要であり、内的リンケージと外的リンケージとの連動を分析視野におさめるべきことである。これとの関連で、初年度実施した台湾と中国のIT産業(半導体産業中心)に関する文献・資料の分析とパイロット調査からの知見をまとめると次のようになる。台湾に関しては、半導体産業界全体として垂直非統合システム(設計、フォトマスク、ウェハ製造、パッケージ、テストの各段階をそれに特化した独立企業が担う)を形成しているが、その核はファウンドリ(ウェハの受託製造ビジネス)であり、その導入により、ファブレスの設計会社の参入が促進され、国内の分業システムの発達が刺激された。ただし、ファウンドリがビジネスとして成立するためには、国内需要のみならず、海外のファブレス設計会社等からの受注により規模の経済を実現することと、米・日等の先進国からの製造装置と製造技術の導入という知識面での外的リンケージが不可欠であった。技術導入とその吸収に当たっては、初期には政府系の研究機関である工業技術研究院が中心となり、後には民間企業自身が精力的に技術投資を行なっており、単なる受動的な海外技術への依存とは異なる。中国においても、2000年以降、同様の垂直非統合システムが発達してきているが、その中心であるファウンドリは、海外の大手企業からの大量受注とそれに付随する先進製造技術の導入に支えられている。台湾と中国で類似のビジネスモデルが形成されつつあるが、両者間の分業・差別化および競合関係の詳細な分析は次年度以降の課題である。
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