研究概要 |
当初、日米の制度の比較を行い、その上で日本にPhauの手法(Pfau, Wade(2003)Essays on Social Security Reform. Princeton University Ph.D. Dissertation)を適用する予定にしていたが、第1年度(平成18年度)の間に、cohort component model(コーホート要因法)とstochastic forecast(確率的予測)を組み合わせたLee and Tuljapurkar(1994)の方法をアジアの諸国に適用することによって、その汎用性を高め、その上で日本への適用を試みる方針に変更した。この変更した方針にそって、19年度においては主としてベトナムの年金の将来像について確率的予測を行った。同時に同国の無拠出年金の整備などについても分析を進めた。 19年度から20年度にかけてはタイとパキスタンへの同手法の適用も研究成果を生んでいる。タイについては確定拠出型の老齢年金制度の持続可能性について研究し、パキスタンについては公的年金における国際的な年金運用の分散化の持つ意味を考察した。 19年度から始めた日本の人口予測については確率的な予測を試みた。このようなねらいでの先行研究はすでに鈴木ほか(2003)がある。これもMonte Carlo法を使ってはいるが、コーホート要因法に直接確率的予測を組み合わせるのではなく、経済的要因を説明変数とする出生率関数を推計し、その分散を用いている点で異なる。同論文はデータが整っており、出生率について既存の研究がある場合にのみ可能なものであり、汎用性がない。これに対して我々の研究ではこれまでアメリカとアジアの諸国に適用して成功している手法で日本の人口予測を見直している。これは出生率関数の精度や説明変数の選択などに伴う問題を回避する意味もある。このように我々の研究は従来の研究を一歩進めるものとなったといえよう。
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