前年度は、92年以降の産業政策を、移行経済全体を意識しながら概観したが、本年度は経済成長期に入ったプーチン時代の産業構造と産業政策に焦点を移して検討した。 まず、成長過程にある現在のロシアで、産業構造の転換がどのような形で進行しているのかを検討した。各産業の回復動向をみると、成長の実績や可能性が多く生み出されていることが確認できるが、こうした波及効果は全ての部門に及んでいるわけではない。機械や大衆消費財の一部では、ほとんど発展の可能性を見出すことができない。つぎに、これらの現状に対するプーチン政権の産業政策を検討した。産業に関する政府の主たる政策には、戦略・目的プログラムの作成・実施と、企業構造・所有の変更を通じた特定企業の直接的支配があるが、国家には上述のような衰退部門を維持する意図はないと思われる。ロシアはこれらの部門の再生を迂回して新しい成長モデルの形成をめざしているかのようであるが、基盤的技術と大衆消費に結びついた製造業を持たないで長期的な経済発展が可能であるのかという点には疑問が残る。以上のような内容について、2007年10月21日のロシア・東欧学会(於:大阪大学)で報告を行った。 また、現在の産業構造を規定することになったソ連時代の産業についても整理するため、資料収集にあたった。特に消費財部門の需要と供給がいかにアンバランスであったかを、軽工業に焦点を当てて再検討することにした。このテーマの資料収集のために、2008年2月13-24日にかけてモスクワ現地調査を行った。
|