研究課題
本研究課題においては、事業分野の再編手法として用いられるM&Aや戦略的な提携行動に焦点を当て、こうした活動の経済効果と競争法への含意を探ることを目的として研究を遂行してきた。本年度の研究においては、近年とりわけ欧州諸国の競争政策運用において問題とされてきた、流通分野におけるM&Aや戦略的提携行動を通じて生じる買い手独占力がどのような競争上の経済効果を生み、それがどのような競争政策上の含意をもたらすかを中心に研究を行ってきた。流通分野においては、M&Aや戦略的な提携行動を通じてチェーン展開が活発に行われている。この種のチェーン展開は、地域的に独立な複数の市揚に対して行われる点に特徴を見出すことができよう。そこで、この特徴を反映させたモデルを用いた分析を行い、サプライヤー間の競争が激しぐチェーン企業の買い手独占力が先行者の利益の形で反映されるときには、買い手独占力を背景としてチェーン企業が享受する投入物価格の低下の効果は、買い手独占力を持たない小売企業の投入物価格の上昇をもたらす"Waterbed Effect"が生じる可能性を持つことが明らかとされた(下記論文1)。この種の"Waterbed Effect"は、小売り企業の買い手独占力が水平的位置にあるライバル企業に外部効果を与えることを意味する。この種の外部効果はM&A規制や私的独古規制だけでなく、優越的地位の濫用と言った不公正な取引方法に関する規制に関しても大きな競争政策上の含意を持つことになる。そこで、近年の小売企業による優越的地位の濫用の事例である「ドンキホーテ事件」を素材としながら、この種の含意についての法と経済分析を行い、買い手独占力をめぐる競争政策の運用に当たっては、買い手独占力が水平的な競争関係にもたらす外部効果をより詳細に検討することが求められる点が重要となることが示された(下記論文2)。
すべて 2008
すべて 雑誌論文 (2件)
長崎県立大学論集 41巻4号
ページ: 27-48
Kobe City University of Foreign Studies, Working Paper Series. No.030
ページ: 1-28