本研究は、「持続可能な生計」(Sustainable Livelihood)のアプローチを枠組とし、中国における代表的な貧困地域・少数民族地域であり、豊富な地下資源を有する一方で砂漠化に代表される生態系破壊が深刻な内蒙古自治区における貧困地域の開発過程の検証を通じて、環境と貧困の関係を解明し、自然資源の維持・環境保全と貧困削減を同時に達成する「持続可能な地域開発」のあり方をさぐることを目的とする。 2006年度には中国の土地利用法、草原法、再生エネルギー法など自然資源利用・管理に関する法・制度の研究とともに、内モンゴル自治区の赤峰市アルホルチン旗、シリンゴル盟四子王旗・スニット左旗の合計6つの牧民地区村落(ガチャー)でのインタビュー調査と家計および資源管理・利用に関する戸別調査を行った。 現地調査の分析から明らかになったのは、第一に、多くの家計で牧畜経営が行き詰まっていることである。調査戸の中で、自家消費以上の乳製品・食肉・皮革などの加工を行っている家庭は皆無であり、家畜の飼育・販売に専ら依存している。この形態の牧畜経営は、(1)定住化と個別経営化という、市場経済化と自然管理システムの変化に関わる制度的要因、(2)これとも連動した土壌劣化・表土流出、牧草生育の悪化、水資源の逼迫などの環境要因、(4)固定資本投資や投入財費用の増加、生産・出荷・融資に関する協同組合的組織の不在、流通市場・金融市場における情報の不完全性などの市場的要因、(4)生態移民・退牧還林など中央政府の政策と地方政府のガバナンスの問題、などによって高いリスクにさらされ、脆弱性が増大している。第二に、所得面では貧困といえない家庭も、教育費や医療費の支出の増加、その他の牧民地区特有の理由により生活が逼迫していることである。 以上は世界銀行が内モンゴル自治区で実施した貧困調査報告など従来の研究が見落としている点であり、今年度の追加現地調査と他の研究成果と併せて随時公刊する予定である。
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