研究課題
基盤研究(C)
本研究は、中国の代表的な貧困地域・少数民族地域であり、砂漠化に代表される生態系破壊が深刻な内蒙古自治区における牧区の開発過程の検証を通じて、環境と貧困の関係を解明し、自然資源の維持・環境保全と貧困削減を同時に達成する「持続可能な地域開発」のありかたを探究した。方法論として経済的・社会的・環境的側面を総合した「持続可能な生計」の枠組を用い、四子王旗、蘇尼特右旗、蘇尼特左旗、阿魯科爾沁旗の9つの村落を訪問し、108世帯の農牧民家庭の生活実態調査にもとづく統計的分析とともに、資源管理・環境保全と牧民の生活の実態を観察するフィールドワーク、歴史的文化的視点からの文献調査、村落リーダーへの聞き取り調査を重層的に用いた手法により、牧民の生計「戦略」と持続可能性に影響を与える諸条件を明らかにし、貧困削減への提言を行った。自然的要因と制度的要因による草原劣化という脆弱性条件のもと、主な生計手段たる牧業は、購入飼料の増大と水資源の逼迫、戸別経営のための柵・畜舎、井戸、バイクなど固定資本投資の圧迫、信用へのアクセスの不十分さ、人々の協同意識・習慣の弱体化と協同化組合の未組織などソーシャル・キャピタルの劣化、リーダーシップ不在と人的資本の不十分さなどにより牧畜経営を危機に向かわせている。典型的な生計戦略は(1)政府の退牧還草政策に沿った、あるいは自発的な都市近郊への移住と乳牛農家への転身や就職、(2)自然資本劣化と政府依存のもとでの高付加価値牧畜(カシミヤ生産・高品質肉牛)による自己防衛で、自然資本維持にも効果的とはいえない。経済活動の多様化(再生可能エネルギー資源の活用と連携した加工・流通)と生計選択肢の拡大のためには、指導者の育成、協同化への自助努力と自然資本の劣化を防ぐ村落コミュニティ主導の方策(換地や協同化による草地利用の縮小・効率化など)とともに、資産保有・アクセスの状況を好転させ市場を整備する公共政策が不可僻あ考えられる。
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Working Paper, Research Institute for Economicsand Business Administration, University of Hyogo No. 215
ページ: 1-22
Working Paper, Reseach Instite for Economics and Business Administration, University of Hyogo No. 215