本年度は主として、税源移譲が市町村の効率化行動と市町村間の財政格差に与える影響についての分析を行った。そこでは、税源移譲が市町村の財政に及ぼす影響を所得税と消費税の2通りの移譲を行った場合についてシミュレーションし、効率性と財政格差それぞれの視点から比較しており、結果は以下のようにまとめられる。 所得税と消費税を比較した場合、それらの移譲が市町村運営の効率化に与える影響はほぼ同程度であるが、消費税を移譲する方が実質歳入の格差は小さい。この意味で、税源移譲の財源としては消費税の方が好ましい。 また、これ以外に以下のような結果を得た。第一に、税源移譲の方法に関わらず税源移譲額が増加するほど実質歳入の格差は拡大する一方、税源移譲の規模が大きい場合には市町村運営は効率化する。つまり、税源移譲という政策においては、効率性の改善と財政格差の縮小の間にトレードオフの関係があるといえる。 第二に、移譲額の規模が3兆円までの場合、市町村間の財政格差を拡大させかつ効率化の進展を阻害する可能性がある。これは、市町村あるいは国全体での行政の効率化を目的に市町村合併の推進策がとられている現状において、税源移譲はかえって状況を悪化させるだけの可能性があることを示している。この結果から、税源移譲が市町村運営の効率化に与える影響について慎重に検討する必要があることがわかる。 第三に、我々の提案した実質歳入と一人当り歳入を比較すると、税源移譲額が増加した場合に実質歳入と異なり一人当り歳入の格差は縮小する。この結果は、一人当り歳入の格差を縮小させるような政策が、逆に実質的な格差を拡大させる可能性があることを示唆している。
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