研究概要 |
本年度は以下の4つの研究を行った。 1.動学モデルによるソフトな予算制約問題(SBC)の分析 従来の1期間での補助金におけるSBC問題を、地方債を導入した2期間および無限期間モデルに拡張した。その結果、新しいメカニズムによる非効率性が発生し、これまでは非効率が発生しない地方政府が先に意思決定を行う場合(DLモデル)でも非効率性が発生することを理論的に明らかにした。さらに、2期間のモデルと無限期間のモデルにおいても、非効率性が発生するメカニズムが異なっていることが分かった。特に、無限期間モデルにおける非効率性の発生メカニズムの発見は、SBC問題に新たな解釈を与える結果として意義があるものと考える。 2.経済実験による検証 これまでの分析結果を検証するために、実験経済の手法を用いて地方政府間の財政調整の望ましい程度についての分析を行ってきた。グループ意思決定による遠隔地間の独裁者ゲームを、山形大学と広島市立大学を結んで実施した。この結果、離れた地域の財政調整は近い場合に比べて社会厚生を下げる可能性がわかった。現在、研究成果として公表する準備を進めているところである。 3.市町村の意思決定過程の協力ゲーム分析 シャープレイ値とストロングナッシュ均衡の概念を用いて、市町村合併のモデルを記述し、シミュレーションを行った。しかしストロングナッシュ均衡のもとでは、解が存在しない状況が多数あった。そこで次年度は、解概念を弱めてシミュレーションを行い、特例市を目指した合併などいくつかの類型における特徴を分析する予定である。 4.海外の財政調整制度を適用した場合の効果について分析 オーストラリアにおける州政府間の財政調整の方式を、47都道府県および3,200市町村の地方交付税の算定に適用した場合をシミュレーションした。
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