研究課題
基盤研究(C)
本研究では、1990年代から2000年初頭にかけての日本経済において中堅企業に対して「追い貸し」が観察されたかどうかを、非上場企業の財務データやその取引先銀行の情報を使って考察した。中堅・中小企業向け金融では、「貸し渋り」や「貸し剥し」と呼ばれるクレジット・クランチが幅広く観察されてきた。しかし、その一方で、中堅・中小企業向けであっても、経営再建の見込みが乏しい先に貸出を継続または拡大する「追い貸し」が行われていた可能性は先見的には否定できない。「失われた10年」の日本経済では、生産性の低迷が幅広く指摘されている。しかし、なぜこの時期に生産性が低迷したかに関しては依然としてオープン・クエスチョンである。貸出関数を推計した場合、借り手企業のバランス・シートが各非上場企業の貸出量に対して非線形な影響を及ぼすことが観察された。しかし、上場企業とは異なり、過剰債務に陥った非上場企業に対する追い貸しは、ごく一部の企業に限られた。ただし、1990年代後半以降でも、特に金融危機期に、メイン・バンクの不良債権の増加は、貸出を有意に増加させていた。これらの結果は、非上場企業では、借り手のバランス・シート悪化による追い貸しは限定的であった反面、金融危機の結果、貸し手の不良債権が増加した場合に、いくつかの非上場企業に対して追い貸しが行われた可能性を示唆するものである。金融危機に見舞われた1990年代後半日本経済では、経営再建の見込みの乏しい先に貸出を継続する「追い貸し」が生産性低迷の一因であり、健全性が悪化した銀行が非効率な企業への貸出のリストラクチャリングが日本経済の回復に必要であったといえる。
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