株式・債券市場、為替レートに関する先端研究においては、高頻度(約5分間隔)で観測した価格変動を日常的な微小変動成分(拡散成分)と比較的まれな大幅変動(ジャンプ成分)により分離し、それぞれの時系列特性をモデル化する手法が開発され注目を集めている。本研究では、日経平均株価及び日経平均先物の日中高頻度データから構築した「実現ボラティリティ(RV)」にこの手法を適用、2つの成分が異なる時系列特性を持つためそれらを別々にモデル化することがボラティリティ(市場価格変動性)の予測の向上に役立つことを示した。具体的には拡散成分には長期記憶型の時系列モデルを、ジャンプ成分には自己回帰デュレーション・モデルを適用、標本外検定においてもボラティリティ予測力が従来のRVモデルに比較して有意に向上することを確認した。さらに、日本時間で夜間の米国株式市場の変動が翌日の日本株式市場における変動に与える影響を調べ、米国市場変動の拡散成分、ジャンプ成分が翌日日本市場の両成分それぞれに異なる波及効果をもたらすことを実証的に示した。国際金融の主要研究テーマのひとつであるボラティリティの国際市場間波及効果については多くの既存研究があるが、高頻度データによる拡散成分・ジャンプ成分に分離した既存研究は内外ともになかった。特にジャンプ成分の波及効果は、金融危機の国際的連鎖構造に関して示唆に富むもので、資産運用におけるリスクマネジメントのみならず金融政策上の含意も小さくない。 さらに、米国株式市場のボラティリティ指数であるシカゴ・オプション取引所VIX指数の日中高頻度データからボラティリティ・オブ・ボラティリティを算出、新規に開発したいくつかのモデル推定手法を適用、ボラティリティ時系列特性を既存研究にはない高精度で明らかにした。米国株式市場に関する実証結果であるが、今後、日本市場についてもVIX指数と同様な指標及びそれに基づく先物オプションの導入が検討されるものと予想され、導入検討や制度的詳細設計のためにも有益な実証結果である。
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