研究概要 |
本研究の目的は,金融変数と景気変動の関係についての実証分析を行うことである。今年度の文献渉猟を通じて,日本の国債利回りと短期金利の差であるイールドスプレッドと将来の景気後退確率の間には,欧米ほど明確な関係が見出されていないことが明らかになった。また,2001年秋に景気動向指数の先行指標からマネーサプライが除かれ,イールドスプレッドと東証株価指数が導入されているが,この変更が適切であったのかどうかについての評価はこれまでのところ行われていない。このことから,日本のイールドスプレッド,東証株価指数およびマネーサプライと将来の景気後退確率に関係があるかどうか実証分析を行った。その結果,1979年-2004年までの全標本期間では,イールドスプレッド,東証株価指数は,将来の景気後退確率に関する情報を持っているものの,欧米ほど強い関係にはないことが明らかにされた。また,マネーサプライは将来の景気後退に対して予測力をもっていないことが明らかにされた。さらに,イールドスプレッドと景気後退確率の関係に構造変化があったかどうかの分析を行ったところ,1996年末に構造変化があったことが示された。この結果から,1997年以前と以後に標本期間を分割し,同様の分析を行ったところ,1997年以前においてはイールドスプレッドと将来の景気後退確率には有意なマイナスの関係が観察され,その説明力も欧米の先行研究と同じ程度であることが明らかにされた。これに対して,1997年以後は,イールドスプレッドがほとんど予測力を持たないことが示された。この結果は,1997年以降の低金利政策が,イールドスプレッドの景気予測力に影響している可能性が高いことを示唆しており,金融政策とイールドスプレッドの予測力の関連を探ることが,今後の重要な課題となることを示している。
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