今年度は、日米が基幹税の再構築に失敗したという前年度に明らかにした分析結果の原因を財政社会学の観点から抽出するために、内外の先行研究の検討に加え、Steinmo教授との議論を通して理論の精緻化を図るとともに、幅広い意見を吸収するために第64回日本財政学会で報告を行った。そこでは、具体的に以下の諸点が明らかにされた。第1に、制度の形成過程における特徴を考慮に入れた場合、制度による経済合理性の方向付けという点には、権力視角と合理性視角との接点から制度形成のプロセスを考察する視点が必要であること。第2に、合理的選択新制度論と歴史的選択新制度論は、双方が過程論を精緻化していく中で、Schumpeterの財政社会学の枠組みの中に接点を見出していること。第3に、労使和解体制と産業構造の高度化を安定させるために必要不可欠であった高度経済成長とそれによる所得の伸びを、現実のものとして認識させ、日本の相互補完システムを完結させるためには、毎年の減税の制度化が必要であったこと。第4に、戦後、所得税が給与所得税化していく中で、同税は給与所得者からの支持を調達するために絶えざる減税の実施を宿命づけられ、個人所得の伸びを背景に大幅な自然増収を生み出す一方で、そうした減税政策は「税制改正といえば所得税減税」という意識を国民の間に醸成させてきたこと。第5に、第3と第4の点は増税なき財政再建路線の中で、所得控除の増殖を促し、グローバリゼーションと高齢化の進行の中で、所得税制を溶解させる要因として作用していること。本研究は、中間層の育成をその中心的な目的としてきた戦後税制をグローバリゼーションと高齢化の進行の中で再構築していく過程で、日本だけがそれらの階層に依拠した税制の構築に失敗した理由を精緻化された財政社会学の手法を用いて分析した点で理論的かつ政策論的意義をもつものと考えられる。
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