分権制度、集権制度、部分的集権制度という三つの財政制度を取り上げ、地域間の生産性格差と、全地域の合意によって選択される財政制度との関連性を、理論モデルを用いて分析した。本分析においては、地方公共財供給量を各地方政府が独立に決定するかあるいは協力して決定するか、地方公共財供給をファイナンスする税率は地域間で独立かあるいは共通か、という二つの基準から、財政制度を上記の三種類に分類する。この二つの基準は、地域間の協力によって、地方公共財からの便益のスピルオーバーが内部化されるか否か、また、共通の税率のもとで共有地の悲劇が発生するか否か、という二つの観点に対応している。本分析で扱う地方公共財は公共投入財(public input)である。すなわち、ある期に供給された地方公共財は将来の地域住民の所得上昇に貢献する。 分析は、(1)地方公共財から便益の地域間スピルオーバーが発生せず、かつ、政策決定を行う政治家が近視眼的である場合、(2)スピルオーバーが発生し、かっ、政治家が近視眼的である場合、(3)スピルオーバーが発生し、かつ、政治家が、政策が遠い将来にわたって生み出す効果を考慮しながら意思決定を行う場合、の三つのケースについて、初めに各制度下の政治家の意思決定を導出し、次にその結果に基づいて、全地域の合意によって選択される財政制度は何かを求めた。得られた結果は、(1)地域間の生産性格差が小さいほど、分権制度が選択される可能性が高くなる、(2)政治家が、政策決定の長期的効果を考慮するほど、分権制度が選択される可能性が高くなる、という2点に集約される。 分析結果を"Interregional Disparities in Productivity and the Choice of Fiscal Regime"という論文にまとめ、日本経済学会、日本財政学会、その他研究機関で報告した。
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