研究概要 |
理論モデルの概要は次の通りである。生産性が異なる二地域が各期,分権的・集権的財政制度のいずれかのもとで,公共財供給量と税率を決定する。ある期に供給される地方公共財は次の期の住民所得を上昇させ,所得上昇はその次の期の公共財供給量の決定に影響を与える。このような各期の政策決定を合理的に予想して,0期に両地域の合意のもとで特定の財政制度が選択される。 生産性格差と,公共財が生み出す便益の地域間波及効果の程度という二つのパラメータの組み合わせと,選択される財政制度との関連性を求める形でモデル分析を行った。その結果,生産性格差が大きいほど,また波及効果が大きいほど,集権的意思決定体制が採用されやすいことを示す命題が得られた。便益の波及効果が大きいとき,生産性の高い地域は低い地域の公共財供給費用を分担することで,時を経て自らも利益を得るので,生産性の高い地域の賛同を得て集権化が推進されやすい。 また政策決定者が,波及効果が時を経て自らの地域を利することをよく理解していれば,分権的制度のもとでも,波及効果を内部化した意思決定を行うはずである。モデル分析によって,政策決定者が将来世代に配慮し,公共財供給の長期的効果を考えながら政策を決定するときにもまた,分権化が推進されることが示される。 このように,一国内で集権的あるいは分権的地方財政制度が採用されやすい状況のみならず,環境問題,安全保障問題などの解決のために国家間の協力体制が構築される状況を描写している点で,分析結果には意義があると思われる。
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