我が国の株式市場では、2000年以降、規制緩和の中で、大幅な株式分割を実施する企業が数多く現れた。これらの株式分割には、権利落ち日から新旧株式併合日までの期間に、株価が急騰した後急落する現象(いわばミニバブルとその崩壊)がしばしば観察された。本研究では、この現象を理論と実証の両面から分析する。 最初に、この現象について理論研究の観点から調査した結果を中間報告しよう。まず、株式分割に関して古くからある仮説、すなわち、最適株価範囲仮説、および、シグナリング仮説によって当該の現象を説明することは難しいことが分かった。しかし、この現象が、大幅な株式分割に対して投資家の解釈が多様であり(divergence of opinion)、かつ、空売り制約がある場合、バブルが発生し得るという、近年の一連の理論研究と整合的であることが分かった。本研究は、この理論研究に対するインパクトのある実証結果を提供する可能性が高い。 次に、この現象について実証研究の観点から調査中の内容を中間報告しよう。まず、日経NEEDS及び東京証券取引所のTDnetを利用して、1995年から2006年までの期間に我が国の企業によって実施された株式分割のデータベースを構築した。このデータベースには2778件の株式分割が含まれ、そのうち、分割比率が2以上の株式分割は1160件、さらに、そのうち発行日決済取引が行なわれたものは643件を占める。現在、このデータベースについてさらなるスクリーニングを行ない、ミニバブルとその崩壊の実在を確認する作業に取り組んでいる。 また、発行日決済取引市場データを入手して、新株と旧株の株価が乖離するかどうかという検証にも着手している。この検証からは、新株プレミアムの存在が観察される米国での研究結果と逆な結果を確認してミニバブルの存在を補強することを期待している。
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