今年度は、(1)企業を取り巻く各ステークホルダーの強さが経営者交代に与える影響、(2)新会社法の下で発行可能となった種類株式がもつ企業価値への効果を分析した。 まず(1)については2000年1月から2006年3月の間に公開企業買付け(TOB)が行なわれた企業を新聞記事検索によりリストアップし、その条件などのデータをEDIETなどを用いて収集した。先行研究でTOBの成否に影響を与えることが指摘されている要因(TOBを行う前に買収先企業の株式をどの程度保有しているか、買収側企業と被買収側企業の産業が同一かなど)の他、買収側の企業と買収先企業との関係が同一の資木系列にあるのか、買収先企業の労働分配率などの変数と、TOBプレミアムとの関係を分析し、現在結果をとりまとめている途上にある。また、TOBプレミアムの構成要素(一部分)であるコントロールプレミアムについて、以下の計測方法を提唱している。まず、株価変動時系列モデルにLevy過程をあてはめて1%の確率でしか生じないような株価変化の臨界点を求め、次に、TOBのアナウンスがあったときの買収先企業の株価変化(値上がり)のうち、この臨界点を超える部分をコントロールプレミアムの推定値とする方法である。 次に(2)については、種類株の発行ルールでは発行を決議する時点(株主総会)では、投資家はその証券(契約)内容を完全には把握できないという曖昧性が存在するため、投資家が曖昧性回避傾向を持つとすれば種類株発行を行う企業の証券価格が下がることが理論的に予測される。新会社法施行後はじめて種類株式を発行した伊藤園についてこのことを確かめたところ、種類株については理論の予測が支持されたが、普通株式の価値下落は、サブプライム問題などによって引き起こされた市場全体の下落と識別する必要があり、生現在この作業を継続して行っている。
|