研究概要 |
今年度は,企業のステークホルダーのうちの資金提供者について,将来キャッシュフローに関するあいまい性が増加する形でリスクが高まった場合,企業価値にどういう影響が見られるかを分析した。 前年度に,無議決権優先株の株価と普通株の株価を比較することによりコントロールプレミアムの計測を行ったが,どちらも株式市場全体から強い影響を受け,株価は下落していた。二つの種類株式の株価の違いは議決権の差であると結論づけるためには,市場全体の株価水準変化から影響を受ける度合いが二つの種類株式間で同じことを確認する必要があった。今年度は,種類株式の内容そのものが明確でないこと以外に起因するあいまい性が見られた場合に株価にどういう影響が見られるか,モデル分析を行って次の結果を得た。株価は株主に帰属する将来キャッシュフローの割引現在価値であるという標準的な株価モデルのもとで将来キャッシュフローに関するリスクが高まった場合,種類株式間で将来キャッシュフローの受取りに関して優先・劣後関係があると,リスク増大の効果は種類株式ごとに異なる。2006年から2008年にかけての変化は,リスクの高まりが及ぼした影響差のため価格差が変化した蓋然性が高いことがうかがえる。 また,2007年度後半は,サブプライムローンやCDSなどの証券化商品(債券)市場で一斉に資金を引き上げる現象(一種の取りつけ騒ぎ)が見られ,このことが金融システムの不安定性を拡大した。金融システムに機能不全の兆候がみられたため,一般企業は、将来資金を調達する際に定量的な把握が困難な影響を受けることを考慮したと思われる。上記のモデル研究で取り扱った一般企業の将来キャッシュフローに関するリスクの高まりは,ここ数年間に限定するならば,あいまい性の高まりによってもたらされ,その影響も無視できない可能性が指摘 できる。
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