本研究は、金融政策の波及経路の一つである「クレジット・チャネル」に関連している。クレジット・チャネルとは「金融引き締めは、銀行の貸付可能資金を減少させ、企業の投資や家計の耐久消費財購入を抑制し、総需要を減少させる」というものである。従来、クレジット・チャネルは閉鎖経済の下で分析されてきた。しかしながら、現実には、銀行の融資は海外支店や現地法人を通じて国境を越える。したがって、クレジット・チャネルを開放経済の下で分析する必要がある。 金融の国際化が進めば、ある国(A)の銀行市場は他の国(B)の銀行に席巻されてしまうことも考えられる。そのような事態になると、B国で金融が引き締められた場合、B国に本拠を置く銀行が、A国の支店から資金を集めて、B国で不足した貸付可能資金を補充する可能性がある。そうなってしまうと、B国の金融政策ショックが、銀行の国際間資金移動を通じて、A国へ伝播することになる。これが本研究の仮説である。 この仮説の検定について、ニュージーランドと豪州は格好の題材となる。ニュージーランドは市場開放を進めた結果、銀行市場が豪州系の銀行に席巻されている。これまでの研究では、両国のデータから、ベクトル自己回帰モデルを推定した。その推定されたモデルをもとに、豪州での金利引き上げに対して、ニュージーランド国内の貸出金利と貸出量がどう反応するかをシミュレートした。統計学的に有意に得られた結果は「豪州での金利引き上げの後、ニュージーランド国内で貸出供給曲線が左方にシフトする」という、本研究の仮説と整合性のあるものであった。 なお、この研究成果は"International Credit Channel of Monetary Policy : An Empirical Note"としてまとめられ、海外の学術誌に投稿済みであり、平成19年3月29日現在、審査結果を待っているところである。
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