本研究は、20世紀初頭から1950年代までの時期について、国内外を結ぶ華僑送金システムの実態を明らかにし、また、国外からの資金流入が華僑の故地(僑郷)の地域経済に与えた影響を検討することを通じて、中国の対外経済関係の歴史的展開に考察を加えるものである。平成18-19年度にかけて行ってきた、香港で華僑送金を取り扱っていた馬叙朝が残した手紙・帳簿類の(香港大学図書館所蔵)の調査と分析を踏まえて、平成20年度は、広東省档案館(広州市、中華人民共和国)で中華人民共和国建国初期の華僑送金に対する政策に関する政府文書の調査、及び馬叙朝が扱った送金の主要な送り先である広東省台山県で聞き取り調査を行った。その結果、華僑送金は、華僑の家族の家計を支えただけではなく、日中戦争前に当該地域で最初に建設された鉄道(新寧鉄道)を始めとして、地域のインフラの建設に大きく寄与していたこと、建国後も中央・地方政府は、外貨獲得の為に華僑送金を維持・拡大することを目指していたことが明らかになった。そうした政府の方針に反して、華僑送金の流入が大きく阻害されるようになったのは、1960年代の文化大革命時期であり、地域社会が不安定化する中で、華僑の家族及び送金の受け取りが激しい攻撃の対象となった為であった。戦前期から建国初期にかけての、中国本土、香港、海外との経済関係が、国内外の政治的変動の下で、どのような変容を遂げたのかを明らかにし、これらの分析を踏まえて、中山大学亜太学院・歴史系聯合学術検討会で「1929年世界経済危機下的中国経済」 (於 中山大学 2008年12月16日)を発表し、華南地域経済の長期的展開に関する意見交換を行った。
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