平成18年度においては、ヨーロッパ統合について、1950年代におけるヨーロッパ石炭鉄鋼共同体の石炭・鉄鋼共同市場の実態とヨーロッパ統合を推し進めた経済理論との関連を、理論面を中心に分析した。 ヨーロッパ統合を推進した経済理論には、アンドレ・マルシャル(Andre Marchal)らが主張した、市場の枠組みなど参加諸国の法制度や政策を調整して統合を進めようとする議論と、フリードリッヒ・ハイエク(Friedrich A. von Hayek)やジャック・リュエフ(Jacques Rueff)などの市場原理を重視した新自由主義経済学者の議論とが存在した。最初のマルシャルらの議論は、ヨーロッパを統合するためには加盟諸国の経済制度や経済政策を調整することが必要であり、それを実行するために各国政府から独立した超国家的な国際機関設立の必要性を説いていた。これに対して、新自由主義経済学者は、ヨーロッパ・レヴェルでの自由競争市場の確立を優先し、各国政府にしても国際機関にしても、市場への政策的介入を最小限に抑えることを主張していた。 1952年に実際設立されたヨーロッパ石炭鉄鋼共同体は、制度的にはマルシャルらが主張する構造を備えていた。だが、1950年代から60年代かけての石炭・鉄鋼共同市場の実態は、加盟国政府個別の政策や、従来から存在した各国業界団体のカルテル組織によって、石炭や鉄鋼の取引が管理されていた。したがって、実態としてはどちらの統合論にも合致しない形で、現実の市場統合は進行していたのである。 これらの成果の一部は、平成18年12月に刊行された『新自由主義と戦後資本主義-欧米における歴史的経験』(共著)において発表している。
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