初年度の成果としては、まず環太平洋経済圏に属する国家・地域の経済統計を大量に収集し、コンピュータによるデータベースを作製したことがある。すでに19世紀以降の日本、朝鮮、台湾、中国、満洲、香港、米国等の資料の収集と入力作業をすませ、引き続き東南アジア諸地域について収集中である。これらによって作製したクロスデータベースの本格的分析は次年度の作業であるが、現時点で次のような新しい事実を発掘した。第一に、アジア地域の貿易統計が出そろう19世紀後半以降、地域内各国の貿易の趨勢は実に多様である。そのなかで日本の貿易は傑出した伸張を見せており、その増加率は記録のあるかぎり世界の首位である。第二に、1930年以前日本の貿易相手地域は欧米とアジアに限定されていたが、後者の殆どは日本の植民地(朝鮮・台湾)と中国であった。第三に、日本と植民地及び中国との関係は、工業製品と一次産品の交易という先進国一後進国型になっており、日本の資本主義発展にとって、それらの地域市場は死活的に重要であった。第四に、1930年代日本の輸出対象は世界に広がったが、日本帝国圏内の植民地においては商品経済化と工業化が進展しており、それがまた日本資本主義自体の構造高度化をもたらしていた。このように、侵略と植民地支配という従来まったく否定的に評価されていた事態の下で、東アジアには日本を核とした広域の資本主義経済圏が形成されていたことが明らかになった。これらの条件が、第二次大戦後の環太平洋経済の形成に具体的にどのように関わったのかは、次年度の研究課題となる。
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